2012/9/14 完成
私は過去にBHを3つ作っています。第1作目は今はなきコーラルの20cmフルレンジ8F-60を用いたオリジナル設計、2作目は長岡鉄男氏のD-7(FE203×2)、3作目はFF125Nを用いたオリジナル設計のスパイラルホーン。1作目、2作目共に迫力のある音でしたがBH特有の共鳴音が耳につき、手放してしまいました。3作目はワイドレンジでホーンのくせは少なかったのですが、スペースの関係で処分してしまいました。しかしリスニングルームを移動して、スペースに少しは余裕ができたことが製作の決意を後押ししてくれました。

選択したユニットはフォステクスの10cmフルレンジスピーカーFE108EΣ。10センチBHは数年前に秋葉原のキムラ無線でFE103?使用のものを試聴しましたが、とても10センチ1発とは思えない迫力のあるサウンドでした。大口径BHは過去に作ってきているので、今回は小口径でも質の高い音をねらってBH専用ユニットであるFE108EΣに決めました。

10cmユニットにした別の理由はツイータが不要なことと、箱が少しは小型化できそうだと思ったことでした。しかし、ユニット購入後、取扱説明書に書かれてあるメーカー推奨箱(左図)を見るとかなりデカい。横幅こそ違うものの奥行き、高さはD-7とほぼ同じ。やはり低域を伸ばすにはある程度のホーン長が必要なようです。説明書の「タイトで重量感とスピード感を両立」という低域を実現するため、無理な小型化はあきらめました。
左図は今回設計したBHのホーン長と広がり幅のレイヤ図。作図はJWCADで行いました。私のスピーカー設計の教科書は長岡鉄男氏の著書「続・オーディオ日曜大工」と「こんなスピーカー見たことない」(ともに音楽之友社)ですが、今回の設計に関しては、特にホーンの広がりの部分の計算はこちらのサイトが非常に役立ちました。特に音質に影響すると言われる空気室とスロートの部分はメーカー推奨箱をそのままパクらせてもらいました。この部分はユニットの特性を知り尽くしているメーカーが「最適設計」と言っているので、逆らわない方が無難と思いました(^^;)また、ホーン開口位置も「点音源を意識」したアイデアを流用させてもらいました。しかし、メーカーのホーンの広がり方を見ると、素人にも無理なく作れるように簡素化しているように見えます。ここはなるべくエクスポネンシャルホーンに近づけ、かつホーン長を確保するため、オリジナルならではの工夫のしどころです。この辺の設計の試行錯誤はJWCADだと容易で、音道の長さ測定、広がり幅の調整、板の採寸等々に活躍してくれました。特にBH設計ではありがたいツールです。図では補強板が省略されていますが、メーカー推奨箱と同様、スロート部分とその下の折り返し部分、裏板に補強板が接着されています。

オリジナルの設計図はこちらに置いてありますので、興味がある方はダウンロードしてください(zip形式)。
板は15ミリ厚MDFサブロク2枚と910mm×910mm1枚です。MDFは前回も使用していますが、ソリや割れがなく緻密で扱いやすいところが気に入っています。近所のホームセンターで購入し、カットもやってもらいました。カットは左の図面を店員に一緒に見てもらい、かなり正確に切ってもらえました。カットの際大事なことは、横幅が同じ部分の裁断を全て先にやってもらうことです。BHは音道を構成する横幅一定の板を側板でサンドイッチにする構造なので、横幅が一定でないと隙間ができてしまいます。裁断時の誤差で横幅が設計値より1ミリずれていたとしても、全ての幅が同じならば問題なしです。大事なのは一度固定したパネルソーの目盛りを動かさないように切ってもらうことです。1カット50円、カット代だけで2000円近くかかってしまいましたが、仕上がりは満足いくものでした。側板は余りが出ないようにサブロクを4等分とし、数ミリの余り部分は下方と後方にはみ出させる方法にして、少しでもホーン長を稼ぎました。メーカー推奨箱より高さ10ミリ、奥行き25ミリ大きくなっています。斜めに置く板も端は全て直角のままで接着しました。斜めに削る労力を惜しんだことと、端を斜めに削ったところで、この僅かな面積で音質が変わると思えなかったからです。ただし、空気漏れを防ぐために、斜め部分だけは縮みの少ないコンクリート用接着剤をたっぷり使いました。コンクリート用は乾くと木工用よりカチカチに固まり、物を固定する力は木工用より優れているような気がします。はがれにくさは木工用の方が上ですが、音響的にはどうなのでしょう?板で囲まれたデッドスペースには要らなくなった敷き布団から取り出したポリエステル綿をぎゅうぎゅうに詰め込みました。これが音響的に良いかどうかわかりません。メーカーでは砂や砂利を推奨していますが、異物?を入れるのにはどうも抵抗がありました。まあ、空洞よりはましだと思います。

製作過程の写真ですが、誤ってほとんど消してしまいました(>_<)。工法は基本的には側板を下に敷いて、板を1枚ずつ順番に垂直に接着していくだけです。大事なことは垂直にすることです。これが狂うと直交する板との間に隙間が出来てしまいます。スコヤ等の垂直定規は必須です。はたがねは垂直に立てた板同士の接着には、あった方が便利ですが、側板との接着は重量物を上から押さえつければ大丈夫です。
写真は最後に側板を上から接着しているところ。1台分のスピーカーの重さ+重石で押さえつけます。これで十分密着します。

後方にわずかに写っているスピーカーはバスレフ箱に取り付けたFE108EΣです。音を聴くのが待ち遠しくて、FW168Nを取り外し、10cm用の仮のバッフルに取り付けて聴いていました。やはりこの箱では完全な低音不足で、BASSを大きくブーストしても高域のキンキン感が耳障りなざらついたひどい音でした。30分ぐらいの短いエージングでざらつきはかなり良くなりましたが、刺激のある高域がこのユニットのキャラクターだとしたらエンクロージャーを変えても改善されるのか、一抹の不安が募りました。
とりあえず箱は完成です。ホーン開口部のカーブは0.75ミリ厚のポリプロピレンシートをブチルゴムテープで貼り付けて、継ぎ目を隠してきれいな曲面に見えるようにしました。

参考までに本BHの設計値を以下に記しておきます。
・ホーン長 260cm
・ホーン開口面積 537.2平方cm
・空気室 1.83L
・スロート面積 50.4平方cm
・ホーンクロスオーバー周波数 275Hz
・カットオフ周波数 27Hz
・広がり係数 1

空気室は5cm×15cmくらいの余り板を2枚ずつ入れて、1.6Lくらいにしてあります。
MDFのままではあまりに武骨なので、ツキ板仕上げにしました。ツキ板シートはこちらのサイトで購入。木の種類は検討の結果、明るめの色と、ゆったりした木目が北欧家具を思わせるオークに決定。シートは広い面積を歪みなく貼れる厚さ0.5ミリのeasyタイプにしました。厚さが0.5ミリもあるとシートというよりボードといった感じで、質感は天然木そのものです。

写真はツキ板シートをゴム系の接着剤で貼り付けているところ。空気が入らないように中央から外側に向かって押さえつけていきます。余った部分はカッターで切り取り、サンドペーパーで処理すれば継ぎ目がほとんど分からなくなります。
ツキ板でも表面保護の塗装が必要です。オークの色を生かすため、ニスは透明にしましたが、透明ニスでも塗ると色が少し濃くなり、つやが出てきます。塗っては乾燥を繰り返し、軽くペーパーがけした後に最後の塗装をして完成です。
開口部の段差には真鍮プレートを埋め込み、デザインにアクセントをつけました。
ターミナルは市販のものをいろいろ検討しましたが、しっかりした物にはぼったくりに近い値段が付いていたので自作しました。
8mmのステンレスボルトを内側から通してナットで締め付ける方式です。ステンレスは電気抵抗が非常に高いので、これには電気を通さず、内部配線をそのまま外に引き出し、スピーカーケーブルと共締めします。スパナで締め付ければどんな高級なターミナルより確実に接続できると自負しています。
期待の音出しです。最初に吸音材ゼロの状態で試聴しました。驚いたのがバスレフで聴いていたときの印象とまるで違うユニットのキャラクターです。耳障りなキンキン感はまったく感じず、マイルドな音というのが第一印象です。ホーンから漏れてくる中低域の残響感が全体の音を良く言えばマイルドに、悪く言えばもやつかせているようです。また、200〜300Hzあたりの特定の領域で少し共鳴音を感じます。この共鳴音はそれほど強く不快なものではなく、以前に作ったBHに比べればかなり低いレベルです。エクスポネンシャルホーンに近づけた設計が、ホーンの癖を抑えたのではないかと思います。試しに昔のBHで共鳴音がひどく耳についたソースを試聴したところ、ほとんど気になりませんでした。音程、レベル共に少し違うようです。低域はこもった感がなく、ベースやバスドラムの音が重苦しくならずにハイスピードで出て来るところはBHならではです。開口部の位置が高いので、ベースやバスドラムもその高さにあるように聞こえます。低い位置から聞こえた方がリアルな気もしますが、音像がより明確になるメリットは大きいです。

中低域のもやつき感と、共鳴音対策としてホーン開口部の側板にブチルゴムでフェルトを貼り付け、ホーン底部から開口部にかけてポリエステル綿を軽く敷いてみました。結果は良好で、もやつきは解消。共鳴音は低減し、共鳴というより心地よい響きを感じます。ピアノやアコースティックギター、チェロや、ヴォーカルなど、以前のBHでは不得意だった中低音の残響感があるソースも、位置がぼやけず楽器自体が心地よく響きます。

今回のBHは大成功!と言いたいところですが、不満もあります。高域の繊細感です。FT48Dの透明感のある高域に比べると、やや伸びがなく視界不良の感があります。FE108EΣのカタログ値では、高域は23KHzまで伸びているはずですが、私の耳では明らかにFT48Dの勝ちです。まだエージングが進んでいないせいなのでしょうか?
試しにバスレフを上に乗せてツイータ(FT48D)だけを1uFでつないでみました。こういう場合、ネットワーク外付けは便利です。結果は大正解。透明感が向上し、楽器やヴォーカルの存在感がよりリアルになりました。やはりツイータが必要です。
というわけでスーパーツイータのT90Aを買ってしまいました(*^_^*)コンデンサは秋月で購入したルビコンのメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサ、耐圧は630V。0.33uFと0.47uFを試聴の結果、0.33uFに落ち着きました。

現在このスピーカーで家にあるCDやレコードを聴き直して、感動を新たにしているところです。アンプもいつの間にかDENONのPMA-2000SEに変わっていますし・・・(^^;)

次の目標は取り外したFW168NでASW(アコースティックスーパーウーハー)を作ろうと考えています(*^_^*)
自作スピーカー(バックロードホーン)
またバックロードホーンを作ってしまいました!
現在のFW168N+FT48Dの2ウェイバスレフも悪くはないのですが、低音の重苦しさが何となく気になっていて、バスレフポートのチューニングでもしようかなと思っていたところですが、一方で平凡な外観に飽きたことも事実。やはり昔聴いていたバックロードホーン(以下BH)の軽快な低音や、ギミックあふれる外観がなつかしく、BHを作ろうという思いが日に日に強くなっていきました。

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