2017/8/31 完成
自作ハイエンドスピーカー
今回目標にしたのはルビコンではなくFOSTEXのフラグシップモデル、G2000aです。ツイーターとスコーカーに純マグネシウム振動板を、ウーファーにHR振動板を使用したFOSTEXのハイエンドモデル。試聴したことはないのですが、物量、質感、重量、どれをとっても目標にすべき機種です。特に純マグネシウム振動板の音というものを聴いてみたいという思いがありました。残念ながらG2000aで使用されているユニットは専用品で単体で販売されていませんが、同一技術が使用されていると思われるツイーターのT250D、ウーファーFW168HRを使用し、スコーカーはSEASというノルウェーのメーカーのマグネシウムコーン、EXCEL W18EX001という18cmユニットを選択して、HRウーファー+オールマグネシウムユニットの3ウェイシステムを作ろうと思いました。
スピーカーユニットが決まったら、次は各ユニットをどの帯域で使用するかです。これはシステムの音質を左右する重要な要素です。T250Dは1.5KHzまで使用できるので、ヴォーカルの張り出しや楽器の倍音成分を表現する重要な帯域をすべてこの純マグネシウムドームに任せてしまうつもりで、クロスオーバーを1.5KHzぎりぎりにしました(グラフ赤枠)。
FW168HRはグラフで見るとフルレンジのようにかなり上まで再生可能ですが、良い音で再生可能かどうかは別です。メーカーでは2KHz以下を推奨しています。T250Dの出力音圧レベルが90dB/W(1m)なので、FW168HRも90dBをキープしている400Hz以下で使おうと思います。
上記2ユニットの中間帯域である400Hz〜1.5KHzをカバーするのがW18EX001ということになりますが、出力音圧レベルが88dB/W(1m)。しかしグラフを見るとかなりクセのある特性になっています。特に5KHzあたりに強烈なピークがあり、500Hzあたりから音圧はダラ下がり。あまり使いやすいユニットとは言えないようです。高域の1.5KHz以上カットは必須ですが、低域は自然に減衰しているので、密閉箱に入れた場合むしろFW168HRの200Hz以下の音圧降下をダブルウーファー効果で補完してくれることを期待して、ローカット無しにしました。

総合すると、各ユニットの受け持ちは、

 T250D=ツイーター           (1.5KHz以上)
 W18EX001=ミッドレンジ+ウーファー(1.5KHz以下)
 FW168HR=ウーファー         (400Hz以下)

ということで、400Hz以下はW18EX001とFW168HRの2ユニット駆動としました。
左が今回設計したスピーカーの正面図と側面図(断面)。ウーファーは大口径も検討しましたが、設置場所を考えると横幅が必要な大口径より小口径ウーファーを複数駆動するトールボーイにメリットがあるし、トールボーイはスピーカースタンドが不要というメリットも大きいです。ただ、複数ウーファーのトールボーイは低音が必要以上に強調されてしまうという記事をネットで見たことがあります。実際試聴したルビコン8はウーファーを3本使用していますが、低域が強調されたバランスの悪い印象がありました。今回の制作はその点ユニット選びとエンクロージャー設計に配慮したつもりです。T250Dは専用のチャンバーを設け、背圧の影響を遮断しました。ミッドレンジのW18EX001は内容積約20.5Lのやや大きめの密閉箱とし、低域ダラ下がりを狙いました。そしてFW168HRは内容積約40Lのバスレフでfdは45Hzに設定しました。内容積が大きくfdがやや低めなのでfd〜100Hz位に中だるみが起きそうですが、そこはW18EX001とのダブルウーファー効果をねらいます。左図ではポート開口部が正面になっていますが、実際は裏面の同位置になっています。
エンクロージャーの設計はJWCADで行い、バスレフのチューニングシミュレーションはsped(スピーカーエディタ)で行いました。板は18mm厚のMDFで、カットも購入したホームセンターでやってもらいました。写真は裏板にダクトと補強板を接着しているところ。
はたがねや重石を使用して木工ボンドで接着していきます。補強板も十分入れました。
密閉箱の方はグラスウールとポリエステル綿を全体に充填します。バスレフの方はユニットの裏側に近い部分を中心に、グラスウールを貼りました。ダクトから漏れる中高音の吸収用です。スピーカーのターミナルは各ユニットに1対ずつ直通とし、ネットワークは外付けにしました。後でネットワークのチューニングを可能にするためです。
MDFでエンクロージャーを作って終わりならば、普通の自作スピーカーとなるところですが、今回は違います。なにしろ目指すのがハイエンドスピーカー。見た目の質感も重要です。MDFの上に天然木を張り合わせ、エンクロージャーを補強するとともに木目の美しさや高級感をアピールします。2種類の特性の違う板を張り合わせると音響的にも良いという記事をどこかで読んだ気がします。外観で重要な正面と側面に使用することにしました。上面は家に余っていたオークのツキ板を貼りました。正面に使用したのは槐(エンジュ)というマメ科の広葉樹の板でヤフオクで入手したもの。木目が綺麗だったので落札してしまいました。側面に使用したのは杉板で、こちらはホームセンターで購入した荒材です。杉板は種類が豊富で木目が美しく、お金をかけずに高級感のある外装材になると思いました。この辺の思想は「ハイエンド」と相反すると言われそうですが・・・写真は杉板を1枚ずつボンドで接着しているところ。
槐は比重約0.63でやや硬いのですが、トリマーでユニットのフランジ部分のザグリも入れました。T250Dのザグリは自宅にあるDIY用のフライス盤で行いました。曲線なので板を手動で少しずつ送るのに苦労しました。板同士の境目は木工パテで埋めてあります。バッフルの両端はカンナで曲面にしました。杉板はなるべく節のない部分を選んでいます。荒面はカンナで仕上げ、その後全面がツルツルになるまでサンダーがけしました。今回の制作で一番時間がかかった工程です。
着色はターナー色彩というメーカーの水性ウッドステインを使いました。バッフルはエボニー、側面はオークにしました。板の継ぎ目はウッドパテが埋まっているのですが、この工程で問題発覚。着色前はのパテは板材の色と同じで目立たないのですが、ステインを塗ると色の吸収が木とパテで違いがあるため、着色後は継ぎ目が目立つようになるのです。仕方なくパテ部分だけ塗り回数を増やし、木の部分との境界は濃さをぼかすことで目立たなくしました。仕上げのニスですが、今回はツヤ出しではなく半ツヤにしました。てかてかにするよりも落ち着いた光沢で高級感を狙ったつもりです。最後に鬼目ナットをねじ込み、あとはユニットをセットするだけです。
中央のW18EX001は公称18cm、下のFW168HRが公称16cmのユニットですが、バッフル開口径、フレーム径共にFW168HRの方が大きいです。しかし、振動板の口径は、やはりW18EX001の方が少し大きいです。W18EX001の中央の銅色の砲弾型のものはセンターキャップではなくフェイズプラグと呼ばれるもので、このユニットのシンボルです。銅製の硬いものでフレーム本体にしっかり固定されています。マグネシウムコーンは純マグネシウムではなくコーティングされているものですが、灰色で金属でも紙でもない独特の質感です。3つのユニットそれぞれ個性が強く、デザインの統一感がありませんが、そこが逆に自作の良いところ。天然木の風合いも気に入っています。
各ユニットは点音源を意識して、ぎりぎりまで近接するように設計しました。
裏面は見えないのでMDFむき出しです。ターミナルは上中下それぞれのユニットに対応しています。ターミナル上部の角材はスピーカーを仰向けにしたときのターミナル保護用。
バスレフのダクトはここです。面積は60mm×50mm。底面には不用になった毛布を貼り付けてあります。スピーカーを移動するとき、持ち上げるのが大変なので、床をすべらせるときのキズ防止用。スピーカー1本の重量は33.5Kgありました。
ネットワークのコイル5個のうち3個は家にあったものを再利用しました。T250DとW18EX001は1.5KHz-6dBでクロス、FW168HRは400Hzローパス、いずれも-12dB/octです。
左右のネットワークはオーディオラックに納めてあります。スピーカーのインシュレーターは砲弾型の真鍮製ドアノブを流用しました。上面が球形なので、点接触です。
家電量販店のノジマでデンマークのスピーカーメーカー、ダリのルビコン8とルビコン6を試聴したことがあります。特にルビコン6の方は、低音から高音までのバランスがよく、中域から高域にかけて透明度の高い音が印象深く、きれいな音という点で正直自宅のメインシステムであるFE108EΣ+T90Aのバックロードホーンを凌駕していました。もちろんフルレンジのメリットである音像、定位の明確さといった点では負けていないのですが・・・。3ウェイ4スピーカーとフルレンジ、投入物量も金額も違うので音質の差は当然かも知れませんが、このときの試聴が高級(高価な)スピーカーを入手したいという思いを持つきっかけになりました。そのとき試聴したルビコン6は台数限定のアウトレット特価で、価格は忘れましたが手を出せない金額ではなかったと思います。思い切って買ってしまおうと思ったこともありましたが、一方で、高いお金さえ払えば良い音が手に入るのは当然であり、面白味がないのでは?という考えと、その金額に見合う価値がこのスピーカーにあるのかという疑問もありました。商品である以上、価格にはメーカーや販売店の儲けも当然入っているわけで、輸入品は輸送費も高そうです。そうするとスピーカーユニットの原価は大したことないな・・・とか、重量もそれほど重くないしエンクロージャーもコストカットしているかな・・・などという疑念が生じ、熱が冷めてしまうのです。実際には量産効果で良いものを安く製造しているのかもしれませんが。そういうケチな考え方をしてしまう自分には、やはり自作が向いているのかも知れません。ということで、メーカー製の高級スピーカーに負けない、自作ハイエンドスピーカーを作ろうと思いたちました。自分でハイエンドと言うのも変ですが、それだけの価値のあるものを作りたいと思います。
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