ネットに公開されている種々の情報では、回転不良の原因で一番考えられるのが、2SK34というFETの経年劣化らしい。電解コンデンサもかなり怪しい。昔の部品は現在入手困難なものが多いが、2SK34は樫木総業という通販サイトで、1個55円で販売していたので、2個購入。電解コンデンサは秋月電子で購入。秋月ではオペアンプのJRC4558も念のために購入。4558を交換したら直ったというブログもあったので。基板上のICは他に2個あるが、どちらも現在入手困難らしい。これらのICが故障原因ではないことを祈りながら、部品交換作業に移ります。    
ハンダ面はかなり汚れており、パーツクリーナーを吹きかけてみましたが、あまり汚れは取れず。試しにサンポールを塗布してみるも、多少綺麗になる程度でした。電気的に問題なければこのままでも良いと思い、綺麗にするのは諦めました。100均のハンダ吸引器と、ハンダ吸い取り線を駆使して2SK34、4558、全ての電解コンデンサを交換。動作確認しましたが、回転は相変わらず安定せず。やはり原因はあの部品だったのか?・・・実は2SK34が使われている箇所がもう1つあるのです。
こちらのブログに出ている回路図によると、TAS-26と書かれている点線で囲われた部分にFETが存在します。基盤上ではTAS-25と表記された赤い箱がそうらしい(基盤裏ハンダ面ではTAS-26と印刷されている?)。この箱はQL-7Rのカタログによると、サンプルホールド型位相比較回路という大事な部品らしい(写真右)。取り外してみると、赤い箱は単なるフタではなく、複数のパーツ全体を基盤ごとエポキシでカチカチに固めたものでした(熱結合?)。こうなると、個々のパーツを交換するのは不可能。全体を作り直すしかありません。ペンチでバキバキに割ってみると、TRやFET、コンデンサなど、回路図に出ている部品がボロボロ出てきましたw(゜o゜)w
ここまで来て、自分も有料のサービスマニュアルを入手する気になりました。TT-71が使われているレコードプレーヤーであるQL7のサービスマニュアルが海外のサイトで入手可能とのことで、こちらのサイトで16.99ドル、当時のレートで1984円で購入。クレジットカード払い。ダウンロード版なので、すぐにPDFファイルで入手できました。英文ですが回路図や調整方法、トラブルの切り分け方など、修理するには必須の項目が解説されています。

写真右は回路図をもとに自作したTAS-26(位相比較回路)。パーツ類は2SK34以外は家にストックしてあるもので作成。右上のVRは回路図にないものですが、本回路の関与度合いを調整するために付けてみました。試しに抵抗値を最大(1MΩ)にして、クオーツロックを外してもターンテーブルは自律走行でちゃんと回ります。逆に抵抗値を下げると位相ずれのフィードバックが強すぎて、回転が安定しません。回路図通り330KΩ近辺がベストのようです。
TAS-26という部品があるのは同じTT-71でも初期型だけで、次期バージョンではメイン基盤に直付けで配置されているようです。ウチのはVictorのロゴが初期型。初期型ロゴはTAS-26有りなのかもしれません。写真の基板は諸々の部品を交換後のもの。電解コンデンサ以外も、制御系のトランジスタは全交換。回転速度調整用のVRは多回転型のものに交換、他のコンデンサも一部交換しました。トランジスタと抵抗、セラミックコンデンサはアマゾンで売っている中国製の激安アソートセットを使用しましたが、今のところ問題なく動作しています。

無事に正常動作を確認して、修理完了ですが、ここで少し遊び心が出ました。せっかくサービスマニュアルを手に入れたのに、部品交換で終了ではもったいないと思い、少し改造してみようと思いました。
TT-71のクォーツロックの基準周波数は、33 1/3回転が100Hz、45回転が135Hzになっていて、フォノモーターから出力されるFG(周波数発生器)を、この基準周波数と同期させることで、正確な回転速度を実現しています。33 1/3回転は、1秒間の回転数が5/9回転。5/9回転するとパルスが100回出力されるようになっています。また、ターンテーブルに刻まれたストロボスコープも同じで、1周に180個刻まれていて、5/9回転で100個移動するようになっています。
ここで思いついたのは、DENON DP-55Lのようにターンテーブル外周から速度信号を得た方が、検出精度が上がるのではないか?という考えです。FGはモーター回転軸に取り付けられた直径10cm程度の円盤に記録された180個の磁気情報から交流パルスを得ていますが、円盤が小さく記録密度が高いので、ストロボスコープの方が有利ではないかと考えました。結果は失敗。これでうまくいけばメーカーの優秀な技術者がとっくにやっています。でも懲りずにやってみた結果は以下の通り。
改造点は単純で、FGからの交流信号の代わりにフォトリフレクタで読み取った交流信号を取り込むだけです。元の回路はFGからの交流(4mVpp程度)をオペアンプで増幅、変調後、矩形波を生成していますが、FGからの信号線を抜いて、そこにフォトトランジスタからの信号線を差し込み、そのままオペアンプに入力しました。フォトトランジスタの出力は4Vpp程度あるので、入力抵抗1KΩ→10KΩ、帰還抵抗1MΩ→100KΩに変更してゲインを下げたこと以外はオリジナルのままです。
フォトリフレクタ(写真左)は、秋月で購入(ロームの反射型フォトセンサー)。これを本体側面に設置(写真右)。ここはネオン管に近いですが、本体を加工しなくても設置できる場所はここだけでした。ネオン管の光は届かないようです。ターンテーブル側面からは5mm位の距離で、下側の赤外LEDの反射光を上のフォトトランジスタが拾います。

ターンテーブル側面の銀色の部分と、黒い部分の比率は5:5ではなく4:6位。したがってフォトトランジスタの出力もデューティ比40%程度の交流波形になります。それを増幅、変調の過程でオペアンプの反転増幅回路を2回通すので、結果的に生成される矩形波のデューティ比は元通り40%位になります(FGは50%)。このため電圧サンプリングのタイミングにわずかなずれが生じますが、クオーツロックの精度に影響が出ることはありません。
それよりも、この方式の最大の問題点は、ストロボスコープの精度でした。側面の反射板は見た目にはとても精密に、等間隔に刻まれている様に見えますが、実際にこれを基に動作させると、1周ごとに繰り返すパターンの回転ムラが発生します(左の動画)。リフレクタの位置や赤外LEDの強弱等、いろいろ試しましたがうまくいかず、分かったことは、もともとストロボスコープは回転状態が分かる程度の精度しかなかったということ。残念ですが、この方式は諦めました。まさにカタログの「サーボ系自体でワウ・フラッターの原因を作り出すといった不合理」をやっていたようです。FGの精度の高さを再認識しました(^_^;)
もうひとつの改造はネオンランプのLED化です。現状のオレンジ色のレトロな雰囲気も悪くはないですが、白色LED+着色フィルターで別の色にしてみたくなりました。当時はストロボに使用する発光素子はネオン管が最適だったのでしょうが、今は安価で高性能なLEDがたくさんあります。写真はアマゾンで購入した中国製の激安の白色パワーLED。20個入りで千円しませんでした。黄色い部分をよく見ると、3個直列のLEDが3列並んでいるのが見えます。照明用で何かに使えるかな?と思いストックしてあったものを取り出してみました。実験してみると、ストロボ用として十分な明るさがありました。
ネオン管が収まっていた部分に入る様に縁を削りました。チップ部分まで削らなければ、ちゃんと光ります。
ネオン管があった場所にセットしたところ。光の出口の部分に青いセロハン紙を貼ってみました。
元の回路は水晶を元にした基準波(基盤上はTP3端子)の立ち上がりを短時間のオン信号に変換し、トランジスタのスイッチングによりネオンランプを点滅させています。R863の抵抗値だけ変更すれば、ネオンランプをLEDに置き換えるだけで動作しそうですが、高電圧はイヤなので、メイン回路の電源電圧である22.5Vに変更。トランジスタも高耐圧の2SC1573から2SC1815に変えました。これで回路から160Vを一掃できます。また、C817の容量を絞り、トランジスタのオン時間をさらに短くした結果、とてもくっきりシャープなストロボスコープになりました。ネオンランプよりも点灯時間が短いので、光が滲む感じは全くなくなり、ブルーの光が反射板をしっかり捉えています。R863は値の見当がつかなかったので、とりあえず10KΩのVRを入れてみましたが、結果的には抵抗なしでちょうど良い明るさでした。トランジスタのオン時間が短いので、ここで十分電流が制限されているようです。また、R858の値は大きくした方が明るさが増しましたが、よく分かりません?
最後にオシロスコープを使って水晶の基準波とFGの回転波の位相合わせを行います。本来は基準波より0.5ms後にFG波が来る様に、2chオシロで調整しますが、1chの激安オシロしかもっていないので、サービスマニュアル通り、基準波、FG波双方から高抵抗(1MΩ)を介して結合し、ここから信号を拾って調整しました。45回転、33 1/3回転ともに写真の様に突起が0.5msになるようVRを調整して、作業終了です。
ブルーのストロボスコープは気に入りました。主要部品交換のおかげか修理前よりも回転のゆらぎが減った様に感じます。動画ではストロボスコープがちらついて見えますが、実際にはちらつきは全く感じません。


TT-71の修理、改造                                

長年使用してきたプレーヤーが、ついに故障したようです。ターンテーブルのストロボランプを見ると、静止せず不規則に流れていて、しばらくすると高速回転してしまいます。購入から40年以上経過しているので、仕方ないのかなとは思いますが、ついに来たかという感じです。フォノモーター自体はブンブン回るのでとても元気ですが、制御系が逝ってしまったようです。
 2022/6/11完了

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